火鍋の歴史は、はっきりわかっているだけでも清の時代(18世紀)までさかのぼり、最古のルーツはおよそ3000年前の「鼎(かなえ)」という祭事用の大鍋にあると言われています。結論から言うと、火鍋は「辛い鍋」ではなく、神事の料理として始まり、地域ごとに別々の形で育ってきた鍋料理の総称です。だから今も中国各地で味も具材もまったく違います。
長野県松本市で薬膳火鍋の専門店をやっていると、「火鍋ってそもそもどこの料理なんですか?」「なぜ鍋が2つに仕切られているんですか?」と聞かれることがよくあります。この記事では、火鍋の起源の諸説、地域ごとの種類、並べ方に残る食文化、そして「薬膳火鍋」が生まれるまでを、2026年現在の専門店の目線でまとめました。
火鍋の起源は3000年前の「鼎」が最古|ルーツは諸説あり

まずお伝えしておくと、火鍋のルーツは「よくわかっていない」というのが正直な結論です。主な起源として挙げられるのは次の2つです。
- 内モンゴルの羊肉料理として発祥したという説
- 重慶・磁器口(じきこう)の船乗りが、牛や豚の内臓に食塩や山椒を振りかけて煮たのが始まりという説
各地でさまざまに発展した形が合流して今の火鍋になっているため、1本の系譜にはまとまりません。現在も地域によって味付けや特徴が大きく異なるのは、このためです。

それでも最も古いルーツをたどると、およそ3000年前に発明された「鼎(かなえ)」という食器にたどり着くと考えられています。鼎は3本または4本の足で支えられた鉄製の大鍋で、当時は牛や羊の肉を鼎の中で煮て神に捧げる祭事を行い、そのあと皆で分け合って食べていたと伝わります。これが火鍋の最も古い形と言われており、火鍋はもともと神事で神に捧げられていた料理だったことになります。
火鍋が最も盛んだったのは清の時代です。『清代档案史料叢編』という資料には「千叟宴(せんそうえん)」の記録が残っており、1796年に宮中で催された千叟宴では5000人以上を集めて1550もの火鍋を食したと記載されています。
火鍋の種類は地域ごとに違う|日本でなじみ深いのは北京の羊肉火鍋

私たち日本人は火鍋というと「辛い鍋」程度の認識になりがちです。しかし実際の火鍋にはさまざまな種類があり、代表的なものだけでも次のように分かれます。
| 火鍋の種類 | 地域 | 特徴 |
|---|---|---|
| 菊花火鍋 | 蘇杭(蘇州・杭州) | 菊の花を浮かべた、さわやかな香りと独特の風味 |
| 狗肉火鍋 | 湘西 | 犬の肉を使う、地域色の強い火鍋 |
| 毛肚火鍋 | 重慶 | 牛の胃(センマイ)が主役。強い辛味とふくよかな香り |
| 羊肉の火鍋 | 北京 | 薄切りの羊肉をしゃぶしゃぶで食べる |
この中で私たち日本人がよく食べているのは、北京の羊肉の火鍋に近いスタイルです。火鍋にラム肉が定番になった理由は、火鍋になぜラム肉が使われるのか?で詳しく書いています。
このほかにも杭州の三鮮火鍋、湖北の野味火鍋、東北の白肉火鍋、香港の牛肉火鍋、上海の什錦火鍋など、火鍋の種類は数え切れません。辛くない火鍋も多く、当店で麻辣スープと並べて出している白湯(パイタン)スープも、こうした「辛くない火鍋」の系譜にあるものです。
火鍋と食文化の関係|具材の並べ方・医食同源・仕切り鍋の由来
火鍋には、長い歴史のなかで生まれた決まりごとがいくつも残っています。お客様に話すと特に反応がいい3つを紹介します。
具材の並べ方には「もてなしの言葉」が込められている
「前飛後走、左魚右蝦、四周軽撒菜花」。これは鍋の手前に禽鳥類、後ろに動物の肉類、左に魚、右にエビを並べ、まわりに野菜を散らすという、火鍋の具材の並べ方の決まりです。
面白いのは、招かざる客が来たときには並べ方を逆にするという習慣です。手前に肉、後ろに禽鳥類を入れると「早く帰れ」という意思表示になるのだそうです。鍋の中の並べ方がそのまま言葉になるほど、火鍋は食文化と結びついてきました。ちなみに現代の火鍋で大事なのは「並べ方」より「入れる順番」で、こちらは火鍋の食べ方|具材を入れる順番で旨味が変わるにまとめています。
医食同源|台湾では正月7日に火鍋を食べる

医食同源とは「毎日の食事で体を整えよう」という考え方で、日本の七草粥に近い発想です。台湾では正月7日に家族の健康を願って火鍋を作る文化があり、具材は肉、魚、ニラ、香菜、ネギ、ニンニク、セロリと決まっていて、1つでも欠けてはならないとされています。
火鍋が日本でも「体を温める鍋」として親しまれているのは、古くから火鍋がこうした暮らしの知恵と深く関わってきたからだと言えるでしょう。
鍋が2つに仕切られている理由|最初は「五味」の5つだった
当店の鍋も、麻辣と白湯を同時に楽しめるよう真ん中で2つに仕切られています。この仕切り鍋の起源は意外と古く、三国時代、魏の文帝のときの「五熟釜」という記録にさかのぼると考えられています。そこには鍋を5つに仕切り、それぞれに別の味(五味)の食材を入れたと記されており、これが現在の2つに仕切る「鴛鴦(おしどり)鍋」の原型だと考えられています。
薬膳火鍋とは|火鍋に漢方食材を加えた、今の中国で最もポピュラーな鍋

このように火鍋そのものが、中国大陸で3000年の歴史を持つ鍋料理です。そこへ漢方食材を加え、医食同源の考え方を取り入れたものが薬膳火鍋です。今や薬膳火鍋は中国で最もポピュラーな鍋料理のひとつとなり、日本におけるしゃぶしゃぶの起源になったとも言われています。
当店ヤンヤンの火鍋スープにも、草果(そうか)、八角(スターアニス)、フェンネル、クコの実、ナツメなど十数種類の和漢食材を使っています。歴史の話で出てきた「香り」と「煮出し」の両方を成り立たせるため、当店ではスパイスの香りを油に移す工程と、食材を水分側で煮出す工程の二段構えでスープを仕込んでいます。どちらか一方を欠くと、香りか味のどちらかが痩せてしまうからです。
ご自宅で歴史ある薬膳火鍋を楽しむには
当店では、松本の店舗で提供しているものと同じ配合の火鍋スープを冷凍でお届けしています。辛い麻辣スープと辛くない白湯スープがあり、両方を仕切り鍋に入れれば、三国時代の五熟釜に由来する「二色鍋」をご家庭で再現できます。ご注文はAmazonの薬膳火鍋yangyang商品ページからどうぞ。
初めての方はおうちで火鍋を楽しむ方法|通販セット活用ガイドを、スープ選びで迷ったら火鍋の素おすすめの選び方を、冷凍と常温の違いや届いた日の段取りは薬膳鍋のお取り寄せ完全ガイドを参考にしてください。
まとめ|火鍋は「分け合う」ために生まれた3000年の鍋料理
- 火鍋のルーツは諸説あり、最古は約3000年前の祭事用の大鍋「鼎」にさかのぼると言われている
- 最盛期は清の時代。1796年の千叟宴では5000人以上で1550の火鍋を囲んだ記録が残る
- 火鍋は地域ごとに種類が違い、日本でなじみ深いのは北京の羊肉火鍋のスタイル
- 具材の並べ方、台湾の正月7日の火鍋、五熟釜に由来する仕切り鍋など、食文化と深く結びついている
- 火鍋に漢方食材を加えたものが薬膳火鍋。しゃぶしゃぶの起源になったとも言われる
火鍋は神事から始まり、人が集まって分け合うために育ってきた料理です。松本の店舗でも、ご自宅でも、ぜひ本場の火鍋の歴史を味わってみてください。





